文武両道補足情報になりますが、佐野さんは弓道の有段者で、天御前流(あまごぜんりゅう)武術の錬士でもあります。ことさらに武道家というわけではないので、技術者としての佐野さんを知っていても、この事実をご存知の方は少ないのではないかと思います。 天御前流とは、少林拳などと同じく、達磨大師を開祖とする中国拳法(詠春拳)の流れを汲んだ武術の一派です。 南寺(福建省)の少林拳より派生し、雲南省で育ち、日本においては、最初に尼御前岬に伝わったことから尼御前拳法などと呼ばれ、その後、天御前流の名に変遷(へんせん)したとされています。 石川県と愛知県に道場が開かれ、少ないながら門下生を抱えていたものの、近年、全世界で後継者不足に悩まされ、現在は、その系譜が完全に途絶えてしまったとのこと。 分野によらず、年月を経て培われた何かが失われてしまうのは本当に悲しいですが、武術など、無形文化の類は特に、その傾向が顕著なようです。 中でも詠春拳には分派が非常に多く、生き残れなかった流派が少なくありません。 流派の継承は困難ですが、こういう話を耳にするほど、せめて知っている人間が、史実だけでも伝えていかなければと、使命感のようなものを感じてなりません。 天御前流では、他の武道に多く見られる徒手拳術以外にも、八斬刀などを用いる天御前流剣術や、六点半棍などを用いる天御前流棒術、六合花槍を用いる天御前流槍術ほか、弓を除く武具を利用した武器術も習得できました。 錬士とは、それら全ての指南を許された2段(師範)から3つ上の、教士に次ぐ称号(空手では5段に相当)。 技術者を引退してほしくは絶対にありませんが、徒手空拳や刀剣、槍、棒(棍)に加えて弓まで扱える佐野さんなら、道場を開いて弟子を取り、武道家としても食べていけるかもしれません。 |