アルファノート
佐野さんが執筆された最も有名な著書として、ポケットコンピュータ(ポケコン)向け技術誌、アルファノート(αノート)が挙げられます。
アルファノートは、出版から年月が経過した後も、工学系の大学や高校、専門学校生のテキストとして用いられたり、その内容がテストに出題されたりしたそうです。
プログラミング技術が未成熟だった時代にもかかわらず、隅々まで独創的なアイデアに溢れ、教える者にとっても学ぶ者にとっても素晴らしい教材になり得たからです。
特にアルファノートはプログラム(作品)集ですので、そこに掲載されたプログラム(作品)の単位でコピーに次ぐコピーが重ねられ、特に日本全国の工業高等学校生、高専生、技術系専門学校生、技大、工大生等、ポケコンを教育に利用していた学校の生徒を中心に、数多く流通しました(その結果、アルファノートに掲載のあったゲームで遊んだ記憶はあるが、その作者が誰なのかを知らない隠れファンが大増殖する事態も招いています)。
アルファノートにはポケコン間プログラム転送ケーブルの回路図まで掲載されていて、長いプログラムを打ち込まなくても簡単にゲームをコピーできてしまった手軽さから、またたく間に北海道から九州、果ては沖縄まで広がっていきました。
当時、PC-G800シリーズ、PC-200用の大富豪や、マシン語を駆使して作られたテトリス、グラディウスに熱中した思い出がある方々は、少なくないと思われます。
つまり、アルファノートに掲載されたプログラム(作品)ごとに固有の価値が認められており、そうした価値の塊がアルファノートだったわけです。
本当に参考になる、役に立つ、評価される書の扱いというのは、こんな具合です。
一冊の本としてではなく、各ページが切り取られ、作者の意思にかかわらず、あらゆる場所に転載されてしまう。
たとえば、宮沢賢治さんの詩として著名な「雨ニモマケズ」は、それそのものが作品として発表されていたわけではなく、宮沢さんが亡くなられてから、遺品の手帳に記された走り書き(メモ)として発見され、脚光を浴びたそうです。
アルファノートは、出版後も第三者の手により幾度となく再編集され、参考書と化し、プログラマーを目指す学生や、プログラミングを教える教師のバイブルとして用いられるようになっていきました。
もはやオリジナル誌がどこにあるのか分からない(ゆえにオリジナルのアルファノートはプレミアが付いた)状況となっています。
複製品でさえ高値で取引される技術誌ですので、オリジナルともなれば一体いくらになるのでしょうか。
ここまでお読み頂き、アルファノートについてはご理解頂けたかと思いますが、さらに次の事実を知って頂ければ、佐野さんの非凡の片鱗を垣間見て頂けるかもしれません。
佐野さんは、専門大学の教授陣がバイブルとしたほどの名著アルファノートを、高校生時代に執筆なさったのです。
参考情報として、第三者により複製されたアルファノート(定価1,000円)が、オークションに出品された際(2005年時点)の落札価格は85,000円でした。
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